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大阪高等裁判所 昭和32年(ネ)753号 判決

控訴人 原告 前場久

訴訟代理人 伏見礼次郎

被控訴人 被告 東洋木材工業株式会社

訴訟代理人 馬渕分也

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金二〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和三一年六月八日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに金員支払請求部分につき仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

被控訴人は、昭和二七年一一月一日訴外小河木材工業株式会社に宛て金額二〇〇、〇〇〇円満期同年一二月三〇日支払地鳥取市支払場所日本勧業銀行鳥取支店振出地溝口町なる約束手形一通を振り出し、控訴人は同年一一月八日訴外会社から裏書譲渡を受けた。そして、控訴人はその所持人として支払期日に支払場所に手形を呈示して支払を求めたが支払を拒絶されたので、被控訴人に対し右手形金二〇〇、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和三一年六月八日から完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による法定利息の支払を求めるため本訴に及んだと述べ、

被控訴人の主張事実を争い、時効の抗弁に対し、手形の振出人たる被控訴人に対する本件手形債権は満期の翌日から起算して三年後である昭和三〇年一二月三〇日をもつて時効完成により消滅すべきところ、控訴人は同日被控訴人到達の内容証明郵便をもつて被控訴人に対し右手形金の支払を催告し、その後六箇月以内である同三一年五月三一日本訴を提起したから、時効は中断された。なお、右内容証明郵便による催告に際し控訴人が被控訴人に対し本件手形を呈示しなかつたことは被控訴人主張どおりであつてこれを争わないが、時効中断の効力を有する旨述べ、

立証として、甲第一号証、第二号証の一、二を提出し、乙号各証の成立を認めた。

被控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、控訴人主張事実のうち被控訴人が控訴人主張の文言の記載のある本件手形を振り出したことは争わないが、その余の事実を争うと述べ、

仮に、控訴人が本件手形の正当の所持人であるとしても、本件手形債権は満期の日から三年を経過した昭和三〇年一二月二九日をもつて時効完成によつて消滅しているから右時効を援用すると抗弁し、控訴人の時効中断の主張に対し、控訴人主張の催告がその主張の日被控訴人に到達したことは認めるが、右は時効完成の日の翌日に到達した催告であるからすでにこの点において適法な催告ということができず、仮に、右催告が時効完成前にされたものとみられるとしても、右催告は手形の呈示を伴わないから催告としての効力がない。又仮に右催告が有効のものとしても、手形債権については催告後六箇月内に訴状が相手方に送達されて始めて時効中断の効力を生ずるが、本件訴状が被控訴人に送達されたのは右期間経過後のことに属するから時効中断の効力はない。それ故、いずれにしろ控訴人の再抗弁は理由がないと述べ、

仮に、時効の抗弁が理由がないとしても、本件手形の振出人である被控訴人と受取人である小河木材工業株式会社間の本件約束手形債務不存在確認訴訟(鳥取地方裁判所米子支部昭和三一年(ワ)第八四号事件)において原告勝訴の判決があり、被控訴人が同会社に対し右手形債務を負担しないことが確認され、同判決は同三二年五月六日確定したが、右は物権的効力を有するのであるから、控訴人は被控訴人に対し本件手形金を請求するに由がないと陳述し、

立証として、乙第一号証の一、二第三ないし第五号証を提出し、甲号各証の成立を認め援用した。

理由

被控訴人が訴外小河木材工業株式会社に宛て控訴人主張の日時控訴人主張の文言の記載のある約束手形一通を振り出したことは被控訴人において争わないところであり、成立に争のない甲第一号証に弁論の全趣旨によると、控訴人が昭和二七年一一月八日右訴外会社から裏書譲渡を受け現にその所持人であることを認めることができ、成立に争のない乙第三、第四号証によつても右裏書譲渡の事実を左右し難く、その他右認定を覆すに足る証拠はない。

しかして、被控訴人は時効を援用し、控訴人はその中断を主張するからこの点につき検討するに、約束手形の振出人に対する手形債権は満期の日から三年をもつて時効にかかるから前段認定のとおり昭和二七年一二月三〇日を満期日とする本件手形債権は同三〇年一二月三〇日の経過とともに時効により消滅すべきところであるが、右期限の最終日手形金の支払を催告する内容証明郵便が被控訴人に到達したことは当事者間に争なく、右催告に際し控訴人が本件手形を呈示しなかつたことは控訴人において争わないところである。

そこで進んで、手形を呈示しないでなされた催告が民法第一五三条にいわゆる催告として時効中断の効力があるか否かについて考えるに、これを積極に解する有力な説もあるが、手形の呈示証券であり流通証券であるその特質に鑑み、更に手形債権につき特に短期の消滅時効を定めた法意に勘案するときは、民法第一五三条所定の催告についてこれを手形上の請求と異るものとし手形を呈示する必要がないと解すべき合理的理由がないから、手形を呈示しないでした催告はその後一定期間内に裁判上の請求等の手段がとられても時効中断の効力がないものと解するのが相当である。そうすると、本件において控訴人が昭和三一年五月三一日本訴を提起したことは記録上明らかであるけれども時効中断の効力を生ずるに由なく本件手形債権は時効の完成により消滅に帰したものといわねばならないから、その余の判断をするまでもなく、控訴人の本訴請求は理由がなく、原判決は結局相当であつて本件控訴は理由がない。

よつて、民事訴訟法第三八四条に基き本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉村正道 裁判官 竹内貞次 裁判官 吉井参也)

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